山田風太郎「幻燈辻馬車 上 山田風太郎明治全集三」

会津藩士の老人は、息子を戦争で亡くし、孫娘を連れて辻馬車を走らせている。その辻馬車に乗り合わせた人々の生き様と死に様を淡々と描いた物語。

これも上下巻だがまだ上巻しか手に入れていないもの。しかし、はやく下巻が読みたい。山田風太郎は忍法帳は比較的手に入りやすいのだが、明治物をきちんとそろえている書店が少なくてなかなかストレスがたまる。それはともあれ、「地の果ての獄」が極めて生々しく凄惨な物語だとすれば、こちらは同様に人がばたばた殺されてゆくにも関わらず、なにか茫漠として神秘的な雰囲気の漂う、奇妙な魅力に溢れる連作である。おそらく当初は辻馬車の御者をしている老人の身の上話にまつわる、生々しい物語を構想していたのかも知れないが、結果としては不思議な狂言回しとしての役割が強くなり、物語に関わる人々の人生の要所要所に顔を出し、神託とも聞こえる一言を魔神か名探偵のように発し消えてゆく。なんだかとてもかっこよい。しかも、老人の乗る馬車からは、孫娘の要請によって死んだ息子が現れるという設定はいつの間にか忘れ去られ、老人自体が結果的に悪を裁き、人の生死の鍵を握るキャラクターとなってゆく。明治物と言うより、なにか探偵物的な雰囲気もする、とても素敵な連作です。下巻は一体どの書店に行けば手にはいるのであろうか。荻窪の古本屋に行ってみようかな。