星新一「ちぐはぐな部品」

ちぐはぐな部品 (角川文庫)

ちぐはぐな部品 (角川文庫)

これは星新一の本領ともいえるショートショートを集めた物。基本的にはSFが主だが、なぜか時代物やミステリ風なもの、おまけにシャーロック・ホームズの内幕めいたものまであってにぎやかしく楽しい。

角川文庫の新装版。相変わらず片山若子氏の表紙に引かれて購入。挿絵も同氏の手によるものでとても良い。面的な塗りの表現、不思議な線の触感、面と面の境目の味のある仕上げがある意味片山氏の特徴だと思うのだが、本作の挿絵ではその特徴が存分に発揮されている感があり面白い。表紙にみられるキャラクターの描写の楽しさよりも、むしろ多分に抽象的で物語的な、要はなにがなんだかわからない不気味で不思議な挿絵達が、星新一の文章と極めて相性が良く気分がよい。さて、物語については相変わらずの軽妙さでとても楽しめた。おそらく星新一ショートショートを作品集の形で全て読んだのはこれが初めてだが、ああ、なかなか良いではないですか。もうすこし器用で納まりの良い文章を書く人かと思っていたのだが、なにか不思議に引っかかりのある、ぎこちなくも味わい深い文章を書いていると言うことを初めて知りました。やはり短編になればなるほど、文章の切れ味とある種の雰囲気が大事になるということなのか。「救世主」「鬼」「神」「変な侵入者」「廃屋」など、魅力的な作品がいっぱいです。