山田風太郎「地の果ての獄 山田風太郎明治小説全集五」

明治19年、薩摩藩士有馬四郎助はいろいろあって北海道月形の刑務所に看守として赴任する。その道すがらいきなり虐待された囚人達の反乱にあうのだが、その場を取りなした一人のキリスト教教誨師と出会う。その後赴任した刑務所では、様々な囚人達の人生模様を見せつけられ、その一つ一つと関わり合ううちに、不思議と教誨師に諭された「囚人達の話を聞くように」との言葉が深みを持って迫ってくるようになる。

物語自体は、有馬を中心として繰り広げられる看守としての生活と、加えて囚人達の独白として語られるエピソードが織り込まれた、基本的には短編を集めて一つの物語をなしているという形式。山田風太郎らしからぬ落ち着いた雰囲気かと思いきや、囚人達の物語になると俄然残虐趣味が顔を出し、なるほど風太郎であると感じさせられた。これはある種の残酷物語で、図らずもその残虐さの中にある種のカタストロフィを感じさせられるものがある。同時に、ときとしてあまりにも陰惨な描写が顔を出すため、ある種の気分の時には読む進むことが苦痛な感覚もあった。しかし、相変わらず山田風太郎の筆致は魅力的である。全ての登場人物はすべからく悲劇的な人生の結末を迎えてゆくのだが、その中にも教誨師の原や、なによりもアイヌの医者休庵など、画期的に痛快な人物が現れる。特に休庵は狂言回し的な役割を演じ、人の生き死にを司る神秘的な役割を与えられているところが面白い。新宿のジュンク堂にはなぜか上巻しかなく、下巻がまだ入手も出来ていないのが残念である。ところで、裏表紙の解説には主人公の有馬四郎助が「愛の典獄」と呼ばれたと書いてあるのだが、これは有名な人物なのだろうか。さっぱり聞いたことが無いのだが。