山田風太郎「地の果ての獄 山田風太郎明治小説全集五」
地の果ての獄〈上〉―山田風太郎明治小説全集〈5〉 (ちくま文庫)
- 作者: 山田風太郎
- 出版社/メーカー: 筑摩書房
- 発売日: 1997/07/01
- メディア: 文庫
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物語自体は、有馬を中心として繰り広げられる看守としての生活と、加えて囚人達の独白として語られるエピソードが織り込まれた、基本的には短編を集めて一つの物語をなしているという形式。山田風太郎らしからぬ落ち着いた雰囲気かと思いきや、囚人達の物語になると俄然残虐趣味が顔を出し、なるほど風太郎であると感じさせられた。これはある種の残酷物語で、図らずもその残虐さの中にある種のカタストロフィを感じさせられるものがある。同時に、ときとしてあまりにも陰惨な描写が顔を出すため、ある種の気分の時には読む進むことが苦痛な感覚もあった。しかし、相変わらず山田風太郎の筆致は魅力的である。全ての登場人物はすべからく悲劇的な人生の結末を迎えてゆくのだが、その中にも教誨師の原や、なによりもアイヌの医者休庵など、画期的に痛快な人物が現れる。特に休庵は狂言回し的な役割を演じ、人の生き死にを司る神秘的な役割を与えられているところが面白い。新宿のジュンク堂にはなぜか上巻しかなく、下巻がまだ入手も出来ていないのが残念である。ところで、裏表紙の解説には主人公の有馬四郎助が「愛の典獄」と呼ばれたと書いてあるのだが、これは有名な人物なのだろうか。さっぱり聞いたことが無いのだが。