星新一「宇宙の声」

男の子と女の子が理不尽な試練を受けた後に、どう考えても他人事の惑星の困ったあれやこれやの出来事を助けるはなし「宇宙の声」、男の子が理不尽な試練を受けた後に、いなくなってしまった父親の足跡をたどりつつ理不尽な出来事の起こる惑星をたびするはなし「まぼろしの星」の二編収録。

当然、片山若子氏の装丁に引かれ手に取り、片山氏の挿絵を見たいがために購入した一品、素晴らしい物でした。片山氏の描く男の子と女の子の絵のすばらしさもあるが、「まぼろしの星」における、犬のパロがとても良い。適当にふわふわ描いた線の中にこれまた適当に描いたとしか思えない目鼻口が付けられただけの描写は、とても犬には思えずなにか得体の知れぬ不思議な生物に思えるところがまた良いのです。描かれている絵も、キャラクター的な物だけでなく不思議にぎこちない線と黒白の描き分けのなかにくっきりと浮かび上がる世界が、頁をめくる極めて力強い原動力となり、大変幸せな時間の中に気がついたら読み終わっているという感じ。とても充実した時間を過ごさせてくれる、とても素晴らしい一冊でした。物語は、基本的には子ども向けのジュブナイルだが、なんだか質がとっても高い。うっかり登場人物が「こんなになっちゃったのね・・・」などとつぶやく文章の切れの良さ!物語の展開としてはどちらも大差なく、しかも主人公たちがちっとも活躍せず、物語の背景と化してしまう構造は全く同じなのだが、それでも楽しめるのは、挿絵だけのせいではなく、やはり星新一氏の魔力なのであろう。