野尻抱介「タリファの子守唄 クレギオン5」



総員3人の弱小宇宙運送会社が主役のシリーズ第5弾。女性船長の昔の憧れの教官が現在いるという惑星タリファは、年中砂嵐に襲われている大変な場所で、向こう見ずにも着陸を試み不時着してしまう。船長とオーナーが救援物資を探しに行く間、取り残された若年乗組員は、極限的小説的偶然によりその憧れの教官に邂逅するのだが、これが極めていかがわしく悪徳な人物となりはてている。衝撃を受けた船長は、余りよく分からない理由によりその元教官と事実上の勝負を行うことになる。

まあ、楽しく面白く読めたのだが、あまりそれ以上の物は感じられない一作。シャトルに侵入した赤ん坊は設定としては面白いが、物語の柱となるには偶然の要素が多すぎあまり力強さは感じられない。そもそも、話の展開が典型的に過ぎ、最初の数分で最後までの展開が分かってしまうような某有名超長寿テレビシリーズ的な雰囲気が漂う。文章もちょっと乱暴になってきた巻があり、話し言葉の切れ切れさや展開の荒さが多少気になる。一方で、細部に関する気の配り方は相変わらずしっかりとした物があり、それが物語としての構成を唯一つなぎ止めている感もある。なんというか、全体として強引な展開と、時として説明的になりすぎる細部の描写に、非常に肩が凝った。教官の性格の豹変の理由も結局不明かつ不自然。全体としての違和感の理由はここか。