ジョージ・R・R・マーティン「七王国の玉座? 氷と炎の歌1」



妖怪や怪獣がうろつく中世イギリスが舞台とおぼしき島国での、北方に住む支配者の一族に焦点を当てた群像劇。島国での第二位の地位を押しつけられて嫌々ながら北方から南へ下った一族の首領を物語の中心に置きながら、私生児故に北方へ旅立つことになった少年、他の部族の秘密を垣間見たために下半身不随になった少年、狼好きで剣術に精を出す少女など、様々なキャラクターの挿話が語られる。

氷と炎の歌」というぶ厚い単行本を、5分冊にして1冊ずつ1ヶ月ごとに文庫で出版するというプロジェクト。とにかくやたら登場人物が多いので、読んでいる時すら誰が誰やら見失いがちであり、当然一月も時間が空くと全く分からなくなる。それでも、必死に巻末の人物表を参照しながら読み進んでしまうほど、物語は力強く面白い。そもそも、このような中世の架空の世界を、細部に至るまで構築し、その自分が構築したルールや登場人物を恍惚とした雰囲気すら感じさせながらくどくど語るという物語の形式は、とても白けてしまうところでもあり好きな物でもないのだが、ほとんどそのような嫌悪感を本作に感じないのは、むしろ構築した世界の中でのそれぞれの人物の多様なあり方に作者が力を注いでいるためか。よくよく考えれば、ほとんどのこの手の小説はそのような路線をめざしてはいるのではあろうが、ここまで成功している例はあまり読んだことがない。もうちょっと剣やら魔法やらの世界かとも思ったのだが全くそんな雰囲気は感じさせず、むしろいわゆる身体障害者や被差別の人々に光が当てられているのも興味深い。あと一月もすればまたすっかり登場人物を忘れてしまうだろうが、第三巻も間違いなく読むことになりそうです。