バリー・ヒューガート「鳥姫伝」



おそらく中世の中国を舞台とした物語。とある田舎の村で、子供達がばたばたと倒れ苦しみ出す奇病が発生、心を痛めた青年が北京で医者を探し回ると、不思議な老人に巡り会う。その老人は飲んだくれのあぶない医者かと思いきや、実は非常に深い知識と暖かい心に溢れた変人で、二人して子供達を救うべく秘薬を探し求めるうちに、様々な妖怪変化や不思議な出来事に直面する。

日本に駐留経験を持つ元アメリカ軍人が書いた中世中国を舞台とした幻想小説で、それ自体かなりあやしいが、小説自体も結構あやしい。しかし、期待したほどの文化的誤解やいかがわしい記述は全く見つけられず、むしろ中国的マジックリアリズムを見事に会得し、かつ英米流冒険小説的な盛り上がりも満載の、とても素晴らしい小説でした。また、和爾桃子氏による翻訳も素晴らしく、古代中国の古典の現代語訳を読んでいる気分になる大半の理由は、訳者の素晴らしい手腕によるものだと思われる。また、ところどころにアメリカ英語を訳したなあと思われるフレーズも感じられ、その違和感もまた楽しい。アメリカ人の中国文化の誤解と誤読を楽しもうと思って買ったのだが、見事に小説を楽しんでしまった。これはなかなか楽しい経験でした。しかし、この表紙はいかなることか。もしこの少女が鳥姫ならば、このイラストレータは本書を読まずして絵を描いたな。