野尻抱介「アンクスの海賊 クレギオン3」



宇宙マフィアからの逃避行を続ける弱小宇宙運送会社の一行3人は、危険宙域を航行中に海賊に拉致されるも、多少思考能力に不自由さが感じられる若年乗組員のパニックにより苦境を脱することに成功、と思ったら行き着いた先でマフィアにまたも絡まれ、挙げ句の果てに海賊を巻き込んだ大カタストロフをぶちあげる。

大まかに言えば海賊に捕まる話、マフィアに捕まる話、全てをぶちこわす話の三部構成。なんとなく物語が切れ切れで多少盛り上がりに欠ける。作者が後書きに書いているとおり、陽気で破天荒な宇宙戦闘を描きたかったのだろうが、よくよく考えると一つ一つのエピソードに表れている事象はなにか陰惨で生々しく、とてもすかっと読み飛ばすことが出来ない。それでも面白くないわけでは無かったのだが、結局はこの作者にはコメディーは似つかわしくないのではないかという感想が強く残った。運送会社の乗組員の少女が、自らの運命をかけてチェスの勝負を行う箇所は、むしろあの陰鬱とした「マルドゥック・スクランブル」を彷彿とさせる。暗くて生々しく、緊張感が溢れる筆致で書いてみたら、もっと面白い作品になったのではないか、などと無責任に思った。読者は楽で本当に良いものです。すかさず4巻も読まなければ。最近局地的に野尻抱介フェアになってしまったなあ。