ローレンス・ノーフォーク「ジョン・ランプリエールの辞書 上」

ジョン・ランプリエールの辞書 (上) (創元推理文庫)

ジョン・ランプリエールの辞書 (上) (創元推理文庫)

イギリスとフランスの間に浮かぶ島に暮らすジョン・ランプリエールは、恋いこがれる少女の水浴姿をうっかりのぞき見すると同時に父親が犬にかみ殺される場目も目撃する。精神の不調からロンドンに渡り辞書編纂に取り組むが、その合間に父親の謎の死と残した書類の謎の解明に奔走、しかし関わる人々の数人は無惨に殺されてゆく。


色々なところで非常に良作との呼び声高い本書だが、ハードカバーであることとその値段故に手に取るのをためらっていた。しかし創元推理文庫で上下巻ではあるが文庫化されたので購入。一冊1100円程度なので、もしかしたらハードカバーと変わらない値段かも知れないと一抹の不安も頭を横切ったが、その点に関してはまだ確かめていない。


さて、その内容はというと、評判に違わぬすばらしい出来である。とにかく翻訳が素晴らしい。青木純子氏といえば、残念ながら「アルアル島の大事件」は読み通すことは出来なかったが、それはおそらく作者の問題で翻訳者の咎では無いのであろう。とにかく素晴らしい。ともすれば難解で意味不明、ペダンティックさが単なる読みにくさに転じるすれすれのところで、超人的なる翻訳力を持って素晴らしい統一感と語感の流麗さを生み出している。物語の方はというと、これは多少難解で展開もまどろっこしいが、しかし冗長で饒舌ながら全く無駄の無い構成、一言で終わる描写に半ページを費やしながらも幸福感に浸りながら読めてしまう文章、なにをとっても一流である。さて、上巻では物語が急速に展開しつつあるところで幕を閉じたが、下巻を読み通すのが楽しみでたまらない。久しぶりに本格的な読書になってきました。