野尻抱介「ヴェイスの盲点」

ヴェイスの盲点―クレギオン〈1〉 (ハヤカワ文庫JA)

ヴェイスの盲点―クレギオン〈1〉 (ハヤカワ文庫JA)

おんぼろ宇宙船の船長と唯一のクルーが、積み荷をごまかして逃亡中にたどり着いた惑星は、「大戦」時にばらまかれた機雷に包囲され、衰退の一途をたどっていた。しかし、あまり思考が強くない船長が起こした異常行動は、その惑星に隠されていた事実を明らかにしてしまう。

「太陽の簒奪者」がとてもよかったのですかさず同じ作者の作品を読んでみた。おそらくかなり初期の作品だと思うが、これもとても出来が良い。物語的にはある意味ありきたりで良くある話だが、不思議と登場人物や展開がテンプレートのようないわゆる「キャラが立った」と呼ばれる、読むに耐えない記号的な物語に陥っていないのがとても良い。つまり、とても小説が上手い作者だと感じた。話の展開がほぼ予想でき、それほど意外感もなく大円団に向かって邁進してゆくのに、リズム良く切れも良い文章で読ませ、とても楽しめた。わけのわからない自己満足的なSFジャーゴンが全く見られないのもよい。自分が何を書いているのか、よく分かっているなあと思わせる。もうちょっと、ほかの作品も読んでみようと思う。