野尻抱介「太陽の簒奪者」
- 作者: 野尻抱介
- 出版社/メーカー: 早川書房
- 発売日: 2002/04
- メディア: 単行本
- 購入: 3人 クリック: 117回
- この商品を含むブログ (50件) を見る
なんだかいい加減にまとめてしまったが、極めて精緻に構成され、文章も通りよく、物語のリズムもよい。SFにありがちな説明的な文章も極めて巧みに処理され、完成度は非常に高い。おもしろかった。一人の人物の高校時代から還暦直前に至るまでの経験を軸に物語は展開されるのだが、SF的な構想よりはレトロスペクティブに物語中の出来事が物語の後半に語られる構成に、むしろ物語の幅広さと奥行きを感じて心地よい。日本人のSF作家も素敵な文章を書くじゃないですか。解説に「ハードSF」と意味不明な言葉が連呼されるのが不可解だが、なにも物語をジャンルに切り分ける必要は全くないと言うことを、本作の力強さは示している。無用な言葉は作品の質を側面からおとしめるだけ、ただ言葉の連なりを楽しめば良いではないですか。あとちょっと思ったのは、SF的な物語構成(世界観の長い時間軸に渡る構成、異星人という他者的な登場人物の設定)は、本質的に政治的なメッセージ、または作者の政治的な姿勢を如実に表してしまう。その意味では本作にはさほどこころ動かされるところは無かった。でもおもしろかったからいいや。