ジョナサン・キャロル「パニックの手」

パニックの手 (創元推理文庫)

パニックの手 (創元推理文庫)

不思議で暗い結末を持つ短編を集めた物。犬が病気の少女を介して飼い主に不吉な予言をはじめたり、友人の妄想が実体化した素敵な男性が主人公とよからぬ企みを企画したり、ハウスキーパーに偽装した神が嫌な過去を思い出させたり、末期癌を告知された男が秋物の洋服の新作を買いあさったり、狼男を探知する犬がつぎつぎと狼男を発見してしまったりする、そんな感じのお話。

帯に津原泰水が「読者の人生をくるわせるほどのかっこよさである」と激賞していたので購入。後書きも津原氏でそれをよむとなるほど、人生がくるってしまっている。こういうホラー風味のある小説、しかも短編集で翻訳物は最も苦手とするところだが、それでもずいぶん楽しめたのは、その後書きにも書かれているとおり「かっこよさ」が充分に感じられるからだと思われる。物語の切れ味は良くテンポも軽快、終わり方もありがちな落ちではなく、不条理さがちゃんと理解される前にさっさとお話をしまい込んでしまう、不思議と意地の悪いものでとても良い。翻訳も見事、淡々としてしかし物語のモーメントを逃がさず力強い。なんだか良く意味の分からない話も多いが、それも面白い。内田百ケンの短編を読んでいるような、楽しい不条理感があった。末期癌の男が高価な服を買いまくり、恋人を作って病気を告白、恋人が泣いて終わるだけの話「秋物コレクション」が一番楽しめたなあ。