森絵都「風に舞いあがるビニールシート」
- 作者: 森絵都
- 出版社/メーカー: 文藝春秋
- 発売日: 2006/05/31
- メディア: 単行本
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「いつかパラソルの下で」が異常に素晴らしかったのでわくわくしながら読んだのだが、あんまり。文章は相変わらず端正で物語も力強く、普通に読んで普通以上に楽しめる作品ではあるが、突き抜けるようなカタルシスは残念ながら感じなかった。途中まで読み進めるうちに、なんとなく作劇法が想像できてしまったことも興醒めの一因か。そのとおりかどうかは別として、おそらく始めになにか特殊な職業を思いつき、その職業にまつわりそうなトラブルや出来事を考えながら物語を構成し、そこに情愛の問題を絡めて一つのエピソードを整えるという、何となくの構成が浮き上がってしまう。つまりパターン化している。マンガの原作にはとても良いのでは。と書いていて、安野モヨコ氏の「働きマン」を思い出した。なんだかあんな感じです。頑張る人を、あまり力を入れずに励ましているところは共感できるが、そうでも無い話もあり、なんとも複雑な印象を受ける。頑張る人を励ますというのも、よくよく考えれば趣味の悪い話で、それ自体には面白さを感じない。おそらく作者はそのように受け取られることを避けたかったと思うが、そう読めてしまうところが一番の難点か。一番面白かったのは日本文学オタクと代筆屋の話「守護神」で、この力の抜け具合は森絵都氏の良いところだなあと思った。文章自体はとても素敵なだけに、読みながらの評価がむしろ厳しくなっているのを感じた。なにも知らずに手にとれば、良い出来だなあと感心した可能性もある。