東川篤哉「殺意は必ず三度ある」

殺意は必ず三度ある (ジョイ・ノベルス)

殺意は必ず三度ある (ジョイ・ノベルス)

国分寺周辺にある高校の弱小野球部のグラウンドからベースが盗まれるという事件が発生、その直後のライバル校との練習試合の最後に、監督の死体とベースが見つかる。その後もいわゆる野球見立て殺人が続発し、いっこうに推理の冴えない「探偵部」員達の推理がお好み焼き屋で展開される。

高円寺や小平周辺の雰囲気がなんだかとても良くにじみ出ていて親近感を感じる。高校野球西東京地区における弱小高校野球部の争いも、なんだかとても真に迫っていて、著者は三多摩地区の弱小野球部出身なのではないかと思ってしまった。お話は相変わらずの馬鹿馬鹿しさが健在で、本筋とは全く関係のないつっこみや台詞が多用され、まるでページ数を稼いでいるのではないかとすら思えるが、これが東川篤哉氏の一番の魅力である。今回も悶絶しそうになりながらとても楽しめた。事件の方はというと、これは端的に物足りない。舞台設定を見ただけで何となくネタが分かってしまい、それ1本で最後まで突き進むのであまり事件自体に読み進めさせる力はない。登場人物もちと平板で、関係を理解するのが面倒になった。でもまあ、相変わらず楽しめました。残念ながら「交換殺人には向かない夜」のような大傑作では無いが、それは前作ができすぎていただけのこと、本作は本作で面白かった。でも、もしかしたら「交換殺人」はたんなるまぐれ当たりだったのかも知れないなあ。