辻村深月「ぼくのメジャースプーン」

ぼくのメジャースプーン (講談社ノベルス)

ぼくのメジャースプーン (講談社ノベルス)

かわいがっていたウサギを惨殺されたことで心をとざす少女に、以前より深い共感を抱く少年は不思議な能力を持つ。そして、ウサギを惨殺した青年が謝罪を申し入れてきた時、少年はその不思議な能力を使うことを決心する。しかし、そのために少年は同じ能力を持つ大学教授との一週間の話し合いのセッションを持つことになる。そのような話。

物語の大半は少年と大学教授の対話によって構成される。物語自体はとても良く構築されていると思うし、雰囲気もしっとりしていてとても良い。少年の心の動きを描き出す手法も、非常に落ち着いていて好感が持てる。しかし、面白くない。その理由は単純で、少年と大学教授の会話が非常に空虚に響くからなのである。かなりのページ数をさいている割には、あまりどきどきするような展開もなく、むしろ冗長に会話は進む。なぜ冗長に感じるかというと、あまりにも大学教授の台詞が薄っぺらいというか、表層的に感じられてしまうためである。またまずいことに、これは当然哲学書ではないため、大学教授の空虚な哲学は、もしかしたら後半部分の物語の展開に大きく関係しているのかも知れないと思ってしまい、余計まじめに理解する気が無くなってしまった。なだいなだの「神、この人間的なるもの」のような、対話による形式的な弁証法が物事の核心にぐいぐい切り込んでゆき、知らず脈拍が早くなるような経験をしてしまうと、なんとも物足りなく感じてしまった。長さ半分くらいの中編ならばとても楽しめたかも知れない、とも思った。