小路幸也「東京バンドワゴン」

東京バンドワゴン

東京バンドワゴン

東京で古本屋とカフェを営む家族にまつわる出来事をつづった中編集。一番年上で江戸っ子的無意味な頑固さを持つ祖父、その息子で未だパンクロッカーの心を強く持つ息子、その子ども達、そしてそのまた子どもたちそれぞれが出会う出来事を、4編の物語に分けて収録。

舞台はおそらく谷中、未だ行ったことは無いが是非行ってみたい往来堂書店を心に描きながら楽しく読んだ。物語自体はいわゆる「ホームドラマ」のオマージュで、わざとらしく「人情」にあふれた多少暑苦しいストーリーが続くが、それを語るのが今はもうこの世にいない祖母の視点というところが、井上ひさしの「吉里吉里人」を思わせ何とも不思議におもしろい。物語自体はいささか予定調和的優しさと角の取れすぎた非現実感にあふれていて、多少の違和感はぬぐえないが、死者の語る話という舞台設定のすごみが何となく物語に強い枠組みを与えている。その中で展開される話は、冷静に読めば「良い話」とまとめることはあまりできない生々しい展開を持つのだが、それを力業で落ち着かせているところはさすが小路幸也である。なんともひねくれているように読めてしまい楽しかったのだが、このような感想は作者が意図した物ではないとも思う。でも、なんとなくいびつさを感じるのはなぜなのだろう。そこがおもしろかったのだが。