山田正紀「翼とざして アリスの国の不思議」

1970年代を舞台に、石垣島近辺にあるという架空の島「鳥迷島」に灯台を設置することを目的に上陸した、弱小右翼団体の若者7人が経験した不可解な連続殺人の顛末を描く。

何を読んでも基本的に絶賛したくなる山田正紀だが、この小説はちょっと読み通すことが疲れてしまった。そもそも、山田正紀氏のホラー調の文章は何となく苦手とするところであったのだが、本作にもその香りが感じられ、いつものぐいぐい引き込まれる牽引感ではなく、ざらざらしすぎてのどにひっかかってしまったような、多少楽しめる範囲を超えてしまった違和感が感じられて、なかなか大変だった。非常に茫漠として、思わせぶりながら説明が少なく、ストレートなようでいて非常にひねくれた独白は、いつもの山田正紀調でとても好きなのだが、物語全体に覆い被されている仕掛けはあまりに大時代調というか、物語の構成上アナクロニスティックにならざるを得ないのは分かるのだが、それでもちょっとバランスが悪い気がしてしまう。要は、ちょっと物語に無理がありすぎる。まあでもとても楽しめたことは楽しめたのだが、山田正紀氏の文章がよほど好きではないと、この小説は楽しめないだろうなあ。