福田栄一「玉響荘のユーウツ」

玉響荘のユーウツ (トクマ・ノベルズ Edge)

玉響荘のユーウツ (トクマ・ノベルズ Edge)

経営していたメイド喫茶が、運営資金を持ち逃げされたために行き詰まり、街金から500万円の借金をした男が、遺産で転がり込んだアパートを売り飛ばそうと、借家人を立ち退かせる話。


図書館の良いところは、当然自分で買わなくても良いためある種の冒険的読書ができるところである。一方で、そんなにこれは、という本があることも少ないので、勢い手に取る本の幅が広がらざるを得ないというか、選択の識位値が下がるというか、とにかく書店ならば絶対に手に取ることのない本を手に取ることになる。その結果、思いもかけず素敵な本に巡り会うこともあれば、どうしようもなく趣味に合わない本にあたってしまうこともある。


この本に関しては残念ながら後者で、読むのを辞めようかと思ったがあまりにも軽いので最後まで読み通してしまった。なにより、主人公の行動原理が理解しがたい。自分の都合でアパートの借家人を立ち退かせる話なのだが、あまりにも法規的事情や道義的行いを無視した行為が続き、なんとも言えない気分になる。これが作者の常識なのか。物語が進むに連れ主人公の行いはエスカレートし、レイプまでに及ぶのにはなかなか恐れ入った。よくよく考えると、表紙や挿絵の牧歌的な雰囲気に惑わされはしたが、これはむしろクライムノベルとして読むべきなのかも知れない。そう考えれば、なんとなく納得はできる。別に面白くはないけど。