天野頌子「恋する死体 警視庁幽霊係」

恋する死体―警視庁幽霊係 (ノン・ノベル)

恋する死体―警視庁幽霊係 (ノン・ノベル)

異常な霊感を持つ警視庁の特別捜査部のなかでも、他殺死体の幽霊と会話ができてしまう主人公が、元の同僚から不審死の疑いをかけられた元警察官の幽霊に事情を聴取するうちに、大学病院の院内組織にまつわるどろどろとしたスキャンダルと犯罪行為を暴いてしまう話。


キャラクターの設定にはなんとなく無理が感じられ、不必要に過剰な性格付けをされたキャラクターがわさわさと登場するところはいささか今風な小説ではあるが、とても面白かった。文章自体に無理が無く、物語の展開も非常に良く練られ、極めて技巧的でもあり質が高い。ある種の事件性が感じられたと思ったら、その当事者があの世に旅立ってしまい仮説自体が崩れ去ってしまう、いわゆる「どんでんがし」の連続には、最近読んで感心したためか非常にジェフリー・ディーバー的な雰囲気を感じたが、それはとても成功している。というか、ジェフリー・ディーバー(だけではないとは思うが)をよく研究して書かれている気もする。


それだけに、物語の展開にも無理はあるのだがそれを感じさせることはなく、非常に爽快に読み切ることができた。全体的に感じられるのんびりとした感覚と、事件を構成する出来事の寒々しさのアンバランス、そして結末にあらわれる異常性の取り合いが、実に心地よい。是非、ほかのシリーズも読んでみたいものです。