山田正紀「見えない風景」

見えない風景 (山田正紀コレクション)

見えない風景 (山田正紀コレクション)

新築一戸建てを何度も改装するお宅を調べる私立探偵の話「新築一年改築三回」、バットマンの便箋で脅迫状を受け取ってしまった女性の話「脅迫者はバットマン」、12月26日の夜にラーメン屋の前に13個のクリスマスケーキが捨てられていた謎を解く「二十六日のイブ」、終戦直後の田舎の海辺での殺人事件「見えない風景」、首つり自殺を目撃された男が一時間後に商店街で買い物をした後またしても死体で発見される話「スーパーは嫌い」の計5編収録。


推理小説の短編集だが、どれも質が高い。それほど物語に特徴や起伏があるわけでもなく、むしろ淡々と展開してゆくのだが、なにかしっかりと手応えを感じさせるのはなぜなのだろう。それほど文章が格式高いとも思えないのだが、なにかこの口調で書かれると素直に腑に落ちてしまう、不思議な牽引力が感じられてしまう。話自体はよくよく考えればずいぶん馬鹿馬鹿しい話が多く、バットマンの話に至っては思わず脱力してしまうようなオチが用意されていたりもするのだが、それも楽しく感じられるくらいに物語の説得力が強い。


いつも思うのだが、山田正紀氏の文章は、なにかまどろっこしくわざとらしい感じもするのだが、その言い回しは実のところずいぶん研究されているというか、周到に計算されている気もする。つまり、非常に構築的なのではないか。それが、ここまで読まされてしまう理由か。それはともかく、「見えない風景」は何とも江戸川乱歩的な雰囲気が漂うのであるが、江戸川乱歩といえば山田風太郎氏を絶賛し、山田風太郎氏も非常に尊敬していた作家である。一方で山田正紀氏は山田風太郎氏を大変に尊敬しているとどこかで読んだことがある。などと考えていたら、江戸川乱歩山田風太郎山田正紀と、ずいぶんマニアックではあるがある意味正統的な作家の流れが感じられ、大変楽しかった。