山田風太郎「明治断頭台 山田風太郎明治小説全集7」

明治断頭台―山田風太郎明治小説全集〈7〉 (ちくま文庫)

明治断頭台―山田風太郎明治小説全集〈7〉 (ちくま文庫)

明治維新直後の政治と治安の混乱期に、二年間だけ実在した公安機関太政官弾正台に所属する二人の若き政務官が、新政府の汚職など、堕落した側面から生じた不思議な事件を次々と解決に導く、連作探偵小説。


忍法帳を書き終えた山田風太郎氏が、次に取り組むこととなったいわゆる「明治物」の一冊。冒頭からして、格調高いというほどでもないが通りよくリズム感があり、しかもどことなく石川順を思わせるような力強さを持った文章で始まり、とても気持ちがよい。物語自体は、いわゆる「新本格」と自称する人々が得意とする、連作で書かれた短編が、最終的に一つの物語に帰着するという構造を持つもので、いまとなってはありきたりの手法であるが、おそらくこの小説は一つの嚆矢となったのではないか。


主人公のうち、狂言回しは後の警視庁長官だが、もう一人は、留学経験を持ちながら日本の伝統文化に偏執的にこだわる青年で、この青年はギロチンをフランスから持ち帰り日本でためしてみたりもする。この二人が探索行を行う明治維新直後の街並みが、これがまたよく書けているのである。近代の都市と建築を舞台とした小説は数あるが、そのどれもが某「近代日本建築史」のコピーでお茶を濁す中、本書における例えば築地ホテル館の描写には、なにか異常なまでに生き生きとした臨場感を感じることができた。


物語は山田風太郎氏らしく強引で破天荒ではあるが、全編を通じて感じられる異常で破綻した雰囲気が、最終的に見事に大きな狂気へと物語を導いていてとても面白かった。こういう文章を読んでしまうと、とても最近の文章は読めなくなってしまうので困った物である。これは単に趣味の問題なのだが、僕はやはりこのような、多少重くとも流れよく洒脱で、わざとらしくも感じられるが構築への意志が強く感じられる文章が好きだなあ。また、忍法帳よりも、こちらの明治物の方が山田風太郎氏の真骨頂では無いかとも感じた。