ジェフリー・ディーバー「青い虚空」

青い虚空 (文春文庫)

青い虚空 (文春文庫)

勢い余って犯罪的なハッキングをしてしまい収監されたハッカーの元に、カリフォルニア州クラッキング事件担当刑事が援助を依頼、どうやら大変悪質なクラッキングと、それに同期した連続殺人事件が起きているらしい。一時的に収監を介助されたハッカーが調査を進めるうちに、どうやら犯人は旧知のクラッカーであることが判明、しかし誰が殺人者で誰がその援助者なのか、判然としないうちに次々と事態は進展してゆく。


久しぶりに楽しめたなあ。。さすがジェフリー・ディーバー、ある意味極めて古典的な構成なのだが、それ故に安心して楽しめ、うっかり物語の世界に入り込んでしまうと、もう読書を止めること自体が苦痛となる。この著者としては極めて珍しい、コンピュータ犯罪に関する物語だが、巻頭に用語集が置かれ、物語中にでてくる単語は確実にその用語集に収められているという便利設計、しかもコンピュータにあんまり詳しくなくても全然問題ないくらい、物語自体が力強く構成されている。


基本的にはネットワークの不正使用による「なりすまし」が物語の主たるモティーフだが、それがネット上から実世界上に至るまで、様々に展開され飽きさせることがない。物語中で描かれるコンピュータを用いた犯罪は、それがどの程度現実的なのか、または現在においては完全に陳腐化しているのか、全く想像もつかないが、そんなことに違和感を憶えることはないくらいに、とにかく物語の展開が心地よい。これは、コンピュータ犯罪をモチーフとしているけど、本質的には全くそれとは違った次元で物語が構成されている気がするなあ。それが結果として、物語に奥行きと手応えをあたえ、かくも見事な作品に仕上げさせていると思う。だって、コンピュータに詳しくない刑事が何をするかと思えば、コンピュータに銃弾を撃ち込むんだよ。しかも全て跳ね返されて跳弾したりするし。とにかく、厚さの割には走るように読み切れる、とても素敵な本でした。ほんとうに久しぶりに読み終わって心が晴れ晴れしたなあ。