藤岡真「白菊」

白菊 (創元推理文庫)

白菊 (創元推理文庫)

200年くらい前のロシアの天才少年が書き残した絵の模写と思われるものがとある拍子で発見されるのだが、その調査を自称超能力者の画商に持ち込んだ大学教授は失踪、その妻らしき人物は自分が記憶を失っていることに気づき、また超能力者と称する画商の身の回りには暴力的な出来事が頻発する。物語は白菊と呼ばれる絵の、オリジナルの在処を中心に展開してゆくのだが、多くの人物の目から語られる物語はその輪郭をだんだんと崩れさせてゆく。


ゲッペルスの贈り物」を読んだ時にはこの人は天才だと思い、ネット古本屋でやっとのことで手に入れた「六色金色殺人事件」を読んだ時にはこの人はアホなのではないかと思い、なんとなくその後「ギブソン」を読んだ時はこの人はゲームのやりすぎなのではないかと思ったが、本作はなかなかの快作でした。


物語を語る視点をいくつも用意する手法自体はありふれてはいるが、ある程度物語の仕掛けを明らかにしつつ、仕掛けだけではなく構成と語り口の上手さで読ませる手法は、極めて技巧的である。読み終わった時にはなんだかずいぶん最初からは遠くに来てしまった気もするが、よくよく考えてみると非常に収まりも良い。描写がだれだれにならずに、ある程度の緊張感が保たれているのも好感が持てる。なんだかカバーデザインがとてもかっこわるい気がするが、まあ、作品の質を貶めると言うほどひどいわけではない。予想以上に面白かったので、後味が極めて良くなったということかも知れないが。