竹本健治「将棋殺人事件」

「恐怖の問題」と呼ばれる都市伝説、大道将棋にまつわる「香歩問題」、詰め将棋の倒錯問題、自殺に見える他殺、正気を失う隣人、猫の惨殺事件など、無造作に配置されたいくつもの事件がある一点を中心に明滅する中、素人探偵たちが乱暴で強引で的はずれな推理を展開する。


竹本健治といえばある作品で中井英夫の再来かとも言われたらしいが、ぼくは断然本作と囲碁殺人事件、トランプ殺人事件で構成されるいわゆる「ゲーム三部作」が好きなのです。何が好きかと言えば、いったい何が事件誰が被害者で誰が犯人なのか、一読しただけでは判別できないくらいに茫漠とした雰囲気の中で、時には犯人が、時には容疑者が、時には犯罪自体が消滅してしまうくらい、ミステリーというジャンルの枠を打ち破り、小説に許された表現をのびのびと使い、単なる文字の連なりの向こうに予想もしない世界を見せてくれるからであって、僕はトランプ殺人事件に一番そのような傾向を感じるのですが、この将棋殺人事件にも充分にその魅力は感じられ、とても読んでいて心が洗われるというか、気持ちが良くなれる作品なのです。久しぶりに読んだけれど相変わらず瑞々しさというか若々しさは感じられ、とても楽しめました。


最後の最後までイマイチ物語の構成がつかめないほど茫漠としてつかみ所がないけれど、それはおそらくそうなってしまったと言うよりは、この小説がこの作者をしてそう書かしめているのではないかと、思ってしまうくらいに見事な収まりをする小説でした。しかし、この極めて入手が難しかったゲーム三部作を復刊してくれた創元社は本当に素晴らしい出版社です。できれば今後は竹本健治氏の新刊を出版してもらいたいものだ。