山田風太郎「剣鬼喇嘛仏 山田風太郎忍法帖短編全集12」

田沼意次の息子が赤坂に公営の遊郭を作ることを思いつき、忍者に経営を任せて始めはするのだが、事態は思い通りに進まず汲々とする話、江戸川乱歩をモティーフに江戸時代後期の不思議なディレッタントの侍の行状を描いた話、梅毒で欠いた鼻に局部を移植した大名の話、小五郎を倒した宮本武蔵に挑もうとする侍が、それを阻止しようとする親の陰謀で女性と交合したまま離れなくなり、それでも二人して武蔵と勝負しに大阪城に出向く話、あまりにも馬鹿馬鹿しくて内容を詳述するのがはばかれる話など、徹頭徹尾いかがわしく馬鹿馬鹿しい話を集めた短編集。とても素晴らしい。


物語のできばえからすれば、江戸川乱歩を開化前夜の侍に置き換えた「伊賀の散歩者」が秀逸。江戸川乱歩へのオマージュだと判らなくても楽しめる上に、江戸川乱歩作品を知っていればなおさら楽しい。それ以外の話も、内容は馬鹿馬鹿しいのだが、不思議と格調高く調子よい文章に気がついた時には絡め取られていて、なんでこんな馬鹿馬鹿しいものを自分は読んでいるんだと、極めてまっとうな疑問は読み終わった時まで浮かぶことはない。ただ、一連の忍法帖の最終面での作品群なためか、多少作者に飽きが見られ、書き飛ばしているような印象のする話もちらほら見られた。次からは明治ものを読んでみようと思う。筑摩から文庫で全集も出ていることだし。