三浦しをん「まほろ駅前多田便利軒」

まほろ駅前多田便利軒

まほろ駅前多田便利軒

まほろ駅前で便利屋を営む男が、市バスが本数を間引きしているのではないかと疑いを持ったおじさんの依頼でバスの本数を一日チェックした帰り際、高校の同級生に久しぶりに再会する。どうやら帰る場所がないらしい彼はそのまま便利屋にいついてしまい、奇矯な言動で様々な物議をかもしてゆく。そんななかでも様々な依頼が相次ぎ、奇矯な友人と便利屋は不思議な人々と関わってゆくことになる。


ずいぶんいろいろ書いている人みたいだが、本作が初読。なかなか面白かったです。文章はしっかりとした骨組みを持ち、なんとなく甘さが漂うというか、情に流れるところがあり締まりが無くなりそうな雰囲気も漂うが、きちんと細部が詰められ物語の輪郭が崩れてゆくことはない。登場人物の言動にも多少の緩さというか、現実感の薄いところはあるがそれでもぐいぐい読ませる力強さがある。軽い語り口ということもあり最後まで勢いよく読み通させる。


一方で、前半部分に感じられた緻密な構造が、後半になり物語の登場人物が固定してゆき、物語としての着地点をめざしはじめた頃からなんとなく弱くなってきたことも確か。物語の必然性というと語弊があるが、なぜこの展開なのか、なぜこの話が語られなければならないのかと言うことが最後になればなるほど感じられなくなってしまったところが残念。主人公の過去の話など、なんとなく無駄なのではないかと感じてしまった。むしろそのようなありがちであざとい展開をする必要は、この物語の構築力からすれば全く不必要なのではないか、もっと綺麗にジャンプした話を読みたいなあと、読み終わってから感じてしまいました。でもとても面白かったので、ほかの文庫で出ている作品があれば読んでみようと思う。