田中哲弥「やみなべの陰謀」

やみなべの陰謀 (ハヤカワ文庫JA)

やみなべの陰謀 (ハヤカワ文庫JA)

ある日突然大学生である男性の元にアロハシャツを着た巨大な男が千両箱を届けに来たことにはじまり、初めてあった二人が物凄く昔からお互いのことを知っている気がする話や、江戸時代に1両を盗んだばっかりに災難に遭う侍の話、「大阪的」なることを強制する強権政治の状態にある未来の大阪でのテロリストの話、なんだかさっぱり訳が分からない話など、極めて脱力感とグルーブ感に満たされたSF的小咄短編集。


帯に「時間SF史上に輝く傑作、まさかの復刊!」と書いてあったので買ってみた。この人は確か誰かの本の解説に「手芸をやっているなんでしゅげー」などということを書いていたので、あまり期待はしていなかったと同時にそれなりの心構えをしてはいたのだが、最初の話をよんでびっくり。文章は上手いぞ、この人。これは結構本物です。しかも、物語自体は破綻一歩手前のシュールな雰囲気。でも、不思議とかみ合っているというか、崩れてはいないというか。なんだか曲芸的。


実はその後の話はそんなに心動かされることはなかったのだが、この第一話だけでも充分に読む価値はある。もちろん、全体としての完成度も極めて高い。しかし微妙といえば微妙で、充分に構築されかつ洗練された物語を作ることができる人だと思うのだが、なにか自覚的に破綻したアドリブを入れている感じがする。わざとノイズを入れているというか、構築されすぎたものにたいする嫌悪感でもあるのだろうか。ある意味、「うる星やつら ビューティフルドリーマー」のような、構築と破綻のすれすれを歩く、極度に技巧的なものも感じるのだが、それは深読みしすぎなのだろうか。でも面白かった。