米澤穂信「夏季限定トロピカルパフェ事件」

夏期限定トロピカルパフェ事件 (創元推理文庫)

夏期限定トロピカルパフェ事件 (創元推理文庫)

「小市民」をめざすためという目的だけのために互恵関係を結ぶ高校二年生の男女が、夏休みに近隣の甘味屋さんを食べ歩き回り尽くしたあげく、誘拐事件に巻き込まれるはなし。


主人公(男性)の生きる目標が「小市民をめざす」という時点でもう理解ができない。だからといって面白くないというわけでは全くなく、この異様な違和感が、物語の結構生々しくて薄暗いというか冷え冷えしたというか、極めて居心地が悪くシュールな雰囲気を、崩壊の一歩手前でしっかり受け止め、物語として成立させている気がする。正直、途中に差し挟まれるケーキを食べるか食べないか、その顛末が隠蔽しきれるかしきれないかと言うことを、二人の主要人物が淡々と論じ合う挿話は全く面白くなかったが、それ以外の話はスピード感もテンポも良く、主人公の内省的な独白もそれほど鼻につくことはない。


とにかく、このひねくれ具合がないと、物語全体のひねくれ具合が説明できず、読み終わってみると、そのあんまり晴れ晴れとはしない展開にも、これで良かったんだと、なんとなく納得させられてしまう。面白いのか面白くないのか、あんまり上手くないのかそれともとてつもなく凄腕なのか、ちょっと微妙な気もするけど、とても若い作家だと言うこともあり、僕は好感を持ちました。「犬はどこだ」よりも、ある意味直球勝負かも知れない。表紙は片山若子氏で、これは相変わらず素晴らしい。この表紙だけでも買う価値がある。