米澤穂信「夏季限定トロピカルパフェ事件」
- 作者: 米澤穂信
- 出版社/メーカー: 東京創元社
- 発売日: 2006/04/11
- メディア: 文庫
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主人公(男性)の生きる目標が「小市民をめざす」という時点でもう理解ができない。だからといって面白くないというわけでは全くなく、この異様な違和感が、物語の結構生々しくて薄暗いというか冷え冷えしたというか、極めて居心地が悪くシュールな雰囲気を、崩壊の一歩手前でしっかり受け止め、物語として成立させている気がする。正直、途中に差し挟まれるケーキを食べるか食べないか、その顛末が隠蔽しきれるかしきれないかと言うことを、二人の主要人物が淡々と論じ合う挿話は全く面白くなかったが、それ以外の話はスピード感もテンポも良く、主人公の内省的な独白もそれほど鼻につくことはない。
とにかく、このひねくれ具合がないと、物語全体のひねくれ具合が説明できず、読み終わってみると、そのあんまり晴れ晴れとはしない展開にも、これで良かったんだと、なんとなく納得させられてしまう。面白いのか面白くないのか、あんまり上手くないのかそれともとてつもなく凄腕なのか、ちょっと微妙な気もするけど、とても若い作家だと言うこともあり、僕は好感を持ちました。「犬はどこだ」よりも、ある意味直球勝負かも知れない。表紙は片山若子氏で、これは相変わらず素晴らしい。この表紙だけでも買う価値がある。