劇団ひとり「陰日向に咲く」

陰日向に咲く

陰日向に咲く

劇団ひとりの連作短編集。ホームレスになることを試みたサラリーマンを描く「道草」、売れないアイドルを異常な情熱をもって崇拝する「拝啓、僕のアイドル様」、カメラマンになることが夢だと口走ったは良いがデジカメすら使えない不器用な少女を描いた「ピンボケな私」、ギャンブルやら何やらで多重債務に陥った男が最後に詐欺事件を試みる「Over run」、地方から夢を求めて上京してきた少女は浅草の演芸の世界に男と仕事を見出すはなし「鳴き砂を歩く犬」の計五編収録。


うん、これは面白い。多少気にはなっていたのだが、そんなに良いわけはないと思い購入はしていなかったのだが、貸してもらったので読み始めたら、ぐいぐい物語に引き込まれ、電車の中で最後の方を読んでいたらあと少しでおしまいというところで駅に着いてしまい、そのまま駅のベンチで最後まで読み切った。まず、そもそもの文章力が達者。しっかりとした文章が書ける上に、もしくはそのため、文体を崩してもしっかりとした骨組みが感じられ、非常に読みやすい上に好感が持てる。


また、構成も素晴らしい。基本的には独立した物語だが、一つ一つの物語は相互に何らかの関係を持つという、推理小説好きには読み慣れた、また、極めて受け入れやすい構成をもち、その見事な落ちの付け方にはうっかり心を動かされてしまった。物語自体には多少の無理も感じられるのだが、それがどうしたといわせるだけの力強さと繊細さがしっかり書き込まれていて何の問題もない。単行本一冊にしては原稿用紙300枚程度と文字量が少なく、あっという間に読み終えてしまうのだが、そこが良いのかも知れない。いや、面白かった。しかし、例のK・Yの実の親父は、なんでおばあちゃんの部屋にいたのだろう?