笠井潔「サイキック戦争 2 虐殺の森」

新版 サイキック戦争II 虐殺の森 (講談社文庫)

新版 サイキック戦争II 虐殺の森 (講談社文庫)

ヴェトナムに姉と姪を探しに行ったものの命からがら帰還した主人公は、今度は以前に妊娠させたものの「革命のために」見捨てた人の女性を捜すためカンボジアに潜入するのだが、そこでの悲劇的な展開をきっかけとして超能力が爆発的に成長、速やかに日本に帰国し最後の闘いを始める。


なんだか不思議といびつな展開なのだが、あんまり物語が破綻しているような気がしないのはさすが笠井潔の面目躍如というところか。カンボジアに潜入するまでは物語はしっかりと組み立てられ、お得意の国際テロ組織の陰謀策動その他諸々が丁寧に展開されてゆくのだが、何らかの事情で物語を打ち切る必要に迫られたのか、日本に帰国したと思ったら大急ぎで悪者を片づけ始め、最後は本当にこれで終わってしまって良いのかと思うくらい、短いページ数の中ですっきりと全てを片づけてしまう。


よくよく考えてみると訳の分からん話で、おかしな男にそそのかされてフランスから日本に帰国した男が赤軍事件に巻き込まれて逃走、そのうちに姉とおぼしき女性が夢の中で虐待を受けていることに触発され姉を捜す旅に出るが、その旅路が失敗に終わると今度は昔捨てた女を捜し始め、最後ははちゃめちゃな超能力合戦で幕を閉じる。まあ、物語の筋立てなんてこんなものかと思いもするのだが、なんだか肩すかしを食わされた気になるのは、いちいち描写が大仰でしかも国際政治問題にも踏み込む念の入れようなのだが、その割には主人公の探求の理由や物語の主たる骨組みである超能力の扱いなどが、なんともしまりがないというか、どうでも良いことのような気がしてしまうためか。これが山田正紀氏のように徹頭徹尾どうでもよいことのように書かれていれば、こんな不思議な気分にはならなくてすむのだが。それでも大変楽しめたことは楽しめたのですが。そういえば、表紙のイラストの締まりのなさと狙い所のわからなさは、なんだか本書の内容にも共通するような気がして面白かった。解説もさっぱり意味が分からない。