ジョン・ヴァーリィ「ティターン」

ティーターン (創元SF文庫)

ティーターン (創元SF文庫)

土星の輪っかの端っこに新惑星を発見してしまった惑星探査艇はその惑星に近づくも、突然伸びてきた触手に絡め取られ全員が惑星に取り込まれてしまう。探査艇の隊長が意識を取り戻すと惑星の内部にいることに気づくのだが、身体のところどころが何かおかしい。それはともあれ、現状を打開し地球にもどるため惑星内部の探検を続けるうちに、様々な生命体と異様な惑星の構造に直面するはなし。


こちらでジョン・ヴァーリィが紹介されていたのを読んだらとても懐かしくなり、ちょっとマニアックな書店に行ってみたらこの本が置いてあったので購入。良く憶えてないが、確かまだ読んでいないはずだ。物語はある意味正統的なSFで、地球とは異なる系統の知性体との接触が大きな枠組みであるが、その枠組みに詰め込まれるエピソードの一つ一つが見事にSF的なる世界を脱構築しているところは、やはりジョン・ヴァーリィなのである。


この時代のSFというと、極めて乱暴ではあるがスター・ウォーズ的な冷戦思考に基づいたマッチョでナショナリズムをむき出しにしたものもよく見られるのだが、ジョン・ヴァーリィはそれとは全く違う世界を淡々と作り上げてゆく。一人で放り出された探査艇の隊長(女性)はだんだんと探査艇の乗組員を見つけ、行動を共にしてゆくのだが、その間に一人の女性隊員と同性愛関係に陥りそうになって悶々となやみ、結局あっさりと同性愛関係を築きあげる。男性隊員の一人はあまりのストレスに残忍な性格が衝動的に表れ破滅してゆき、医師であった隊員はすっかりほかの人々との交流に興味を無くし、飛行船の様な生物の胃袋に乗って世界を探検しに出かけてしまう。


とにかくこんな感じで、予想されうる限りの全ての英雄的で予定調和的な世界は実現されず、ある意味現実的で簡単には救いのあらわれない物語が展開されてゆく。正直、とても面白いかと言われると、ちょっと物語の寓話性とぎこちなさが鼻について、面白いと断言することはできないかも知れない。しかし、物語の終盤に訪れる一種異様なカタルシスと、SFというジャンルを突き崩すことで見えてくる結構斬新で新鮮な物語の地平には、やっぱり心を打たれるものがありました。とても良い話とは言えない気もするのだが、不思議な救いを感じるんだよなあ。でも、面白いと言えば「バービーはなぜ殺される」の方が良かったかも知れない。