笠井潔「新版 サイキック戦争 1 紅蓮の海」

新版 サイキック戦争I 紅蓮の海 (講談社文庫)

新版 サイキック戦争I 紅蓮の海 (講談社文庫)

フランス滞在中にテロリスト国際連盟の大持ち締めにそそのかされ、妊娠させた女性を捨てて日本に帰国した青年は、その後内ゲバに巻き込まれ山中に逃走、潜伏したのだが、日ごとに悪夢にうなされ、その内容を山小屋のオヤジに説明したところ、自分が太古にさかのぼる不思議な一族に連なるものだと言うことを知り、その関係で襲い来る人々をなぎ倒しつつ、姉の行方を捜しにヴェトナムに旅立つはなし。


どういう文脈で笠井潔がこのような冒険活劇を書こうと思い立ったのか、ヴァンパイヤー戦争を読みながら首をひねったものだが、それはさておき今回も極めてまっとうな冒険活劇もので、焦らず悩まずすっきりと読み進むことができる。不思議なことに、このような作品を読んでいて思い浮かべるのは山田正紀氏の一連の冒険小説ものなのだが、両者を比べた場合、描写の切れ味や雰囲気の作り方、カタルシスや爽快感は断然山田氏の方が上手なのだが、笠井氏の作品群にも、えもいわれぬ魅力があることも確かなのである。


おそらくそれは、ある部分ではハードコアポルノをめざしつつも、気がついてみれば舞台は学園紛争から中東・東南アジア情勢が緊迫していた時代に設定され、学園紛争当時の暗い記憶が東南アジアを中心とした政治闘争と相まってどろどろした様相を示しつつ、主人公は一路ヴェトナムへ向かい、そこで繰り広げられている戦争の酸鼻を極める情景を目の当たりにしてしまい、政治的な思考から深く哲学的な思考へとまで没入しまったりするからなのである。文章は決して軽快であるわけでもなく、話し言葉も不自然といえば不自然、テンポも決して良いわけでは無い。しかし、このような偏執的までに重く暗い思考はやはり物語自体の骨格を極めて明らかで揺るぎないものにし、そのためか不思議と読みやすく楽しめる構成を担保しているように思える。