なだいなだ「民族という名の宗教」

民族という名の宗教―人をまとめる原理・排除する原理 (岩波新書)

民族という名の宗教―人をまとめる原理・排除する原理 (岩波新書)

民族の起源を人間の発生時までにさかのぼり考察しながら、人間が集団を形作ること、その集団間で戦争が起こる理由、宗教と民族の相似、ユダヤ人の歴史、単一民族という幻想などについて、対話形式にて語ったもの。


なんとも感想が難しいのだが、基本的にはゆっくりとして落ち着いた語り口によってわかりやすく様々な事柄が説明されている。「神、この人間的なもの」を読んだときにも感じたが、人間の思考は頭の中で会話をするように組み立てられているとも考えられ、このような形式的ではあっても対話形式の叙述は、それだけでわかりやすい。


内容については、これがなかなか微妙で、根底には現在死に絶えた「社会主義」の再評価の願いが横たわり、その結論に向かい、現在までの人間の群れ集い方、そして他者の排除の歴史を振り返っている。ソ連崩壊後、未だに「社会主義」の評価を行うところは非常に筋の通った立派な行為だと思うのだが、残念ながら僕には概念的な社会主義についての知識が無いので、どのような事柄が評価されているのか、正確には分からない。


また、民族がある意味で宗教と極めて似通っていると論ずる中で、例えば日本が単一民族であるという言説がどれだけ誤ったものか、また、そもそも民族や国家というものがどれだけ作られたフィクションであるかと言うことが説かれるのだが、わかりやすく書いているだけにその論拠が多少味気ないというか、力強さが足りない気がした。ほぼ同じような事柄を、より精密に、生々しく書いている書籍(主に研究書だが)はほかにもいろいろあるので、この話題に関してはそれらの書籍を参照した方がわかりやすいと思う。