松尾由美「おせっかい」

おせっかい (新潮文庫)

おせっかい (新潮文庫)

部長とのトラブルに遠因を持つ事故で骨折し入院中の部長補佐は、ふとしたきっかけで読み始めた推理小説の主人公の刑事に感情移入し、作家がその刑事を公平に扱っていないとの義憤に駆られる。そのうち、部長補佐は小説の中に入り込むようになり、本人自身と作家が困惑を極める中、部長補佐の昔の部下であった青年がおせっかいな行為を働き始め、事態は異様な雰囲気を呈しはじめる。


相変わらずの松尾由美で、落ち着いた雰囲気、破綻してゆく物語の構成、理性的な物語の収束、そしてなんとなく残る割り切れず不思議な後味と、全てがそろったシュールな作品でした。作中小説での通り魔殺人の犯人は、何か相手に一つ良いことをしてから殺すため自分のことを「おせっかい」と自称するのだが、この作品の登場人物はみな多かれ少なかれおせっかいであり、そのおせっかいさがだんだんと異常な雰囲気に盛り上がり、小説最後のほうではみんなで異常なおせっかい合戦を繰り広げるという悪夢のような展開が待ち受けていてとても楽しい。


とにかく、雰囲気は静かで落ち着いているくせに、登場人物の行動はどんどんエスカレートして行き、だれがいわゆる犯人的な役割なのか全く分からなくなる中で、作中小説もどんどん破綻して行き、本当にこの作中小説はきちんと完結できるのかとはらはらしていると同時に、この「おせっかい」という小説自体もきちんと完結できるのか、本当に破綻していないのかと心配になってしまう。この不思議な感覚を味合わせてくれるところがさすが松尾由美氏のすさまじいところで、やはり物語の脱構築と飛躍というものは、いつかも書いたがしっかりとしたジャズのインプロビゼーションと同じく、その構成をしっかり踏まえ、知悉した上で行われるものでないと、説得力もなく面白くもないものだなあと、つくづく感じてしまうのである。