林譲治「ストリンガーの沈黙」

ストリンガーの沈黙 (ハヤカワSFシリーズ・Jコレクション)

ストリンガーの沈黙 (ハヤカワSFシリーズ・Jコレクション)

前作「ウロボロスの波動」の最終話で宇宙にすっとんでいってしまった宇宙船の乗組員が、何らかの情報がその宇宙船を通じて転送されていることに気づくシーンから始まり、ブラックホールにかぶせた円盤状のエネルギー吸収装置の不調と崩落の危機、そして火星の住人と地球圏と呼ばれる人々との抗争が激化する中、人類以外の知性体との接触に向けて物語は突き進む。


本を買ってしまう理由のなかに、「気に入った作家は読み尽くす」ということがあったのを忘れていた。久しぶりに、この人は読み尽くしてやろうと思う作家に出会い、とりあえず三作品読んでみた。結論としては、この最新作が一番ぎこちない。文章に遊びがあまり見られず、物語の展開もなにか平板な印象がある。その大きな理由としては、物語の主要な要素の一つが火星と地球という二つの文化圏の間に生じた戦争の描写ということにある気がする。それが悪いというわけではないが、本作ではそれが極めて単純な二元論的思考に着地してしまい、結果として「悪役」として描かれる地球の軍事組織の姿は戯画的としか表現できないほど滑稽で現実感が無く、物語に動かされると言うよりは、無理矢理物語を動かしている雰囲気が伝わってしまう。


同時に、その鏡像的性格を持つ火星の人々の姿も、極めて楽天的な「ユートピア」的な描写で描かれてしまい、これも興醒めである。壮大な物語の構想、登場人物の多様さ、圧倒的なディテールの説得力は相変わらず突き抜けたすばらしさがあるために、むしろこのようなぎこちなさ、不自然さが目立ってしまったのかも知れないが、「ウロボロス」に感じられた、物語を一歩外側から眺め、世界が物語とある種の緊張感を持ちながらのびのびと描かれているような爽快感は感じられることができなかった。ひとことで言えば、物語と登場人物の造形が、あまりにも単純で典型的すぎるのかも知れない。とりあえず手に入る作品は読み終えることができたのでよしとして、次に読む作家を捜さなくては。