林譲治「記憶汚染」
- 作者: 林譲治
- 出版社/メーカー: 早川書房
- 発売日: 2003/10/01
- メディア: 文庫
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なんとも破天荒ではあるが、相変わらずの文章の上手さとリズムの良さでぐいぐい読ませる。「ウロボロス」に比べると、物語に多少の無理が見られる(特に主人公の二人が極限生活を迫られる場面の展開の強引さなど)が、基本的にはしっかりとした文章、しっかりとした構成が心地よく、最後まで楽しく読むことができた。
物語としては、大惨事の後の世界、過激派エコロジスト、人工知能の暴走、謎のアトランティス大陸、知られざる長寿民族など、使い古されたSFのアイディアから赤面してしまうようなオカルト的設定まで、好き放題にふくらませた感があるが、不思議と破綻した気も映画の台本を読んだ気にもならず、ほほえましいと思いながらも最後には本気でのめり込んでしまえたのは、ふと物語から自分の思考が離脱してしまうという、日本人作家のSFを読んでいてとても良くある事態が、この作品では襲ってくることがなかったためだろう。人工知能のネット汚染によって自意識に不安を持ち始める主人公など、まるでディックのオマージュの世界だが、ありがちなせせこましく無理のある物語になることはなく、しっかりとした雰囲気を作り出していてとても良い。適度な軽さと明るさが良いのかも知れない。すかさず「ストリンガーの沈黙」も読まなくては。