田中啓文「銀河帝国の弘法も筆の誤り」

銀河帝国の弘法も筆の誤り (ハヤカワ文庫JA)

銀河帝国の弘法も筆の誤り (ハヤカワ文庫JA)

謎の存在「ファントム」が銀河系の人類を次々に根絶やしにしてゆくのを食い止めるために作られた迎撃用宇宙船には、人間の脳千個が搭載され、その精神力で「ファントム」を迎撃することが期待されていたのだが、その脳の一つに重大な問題があることが発覚してしまった話「脳光速」をはじめ、宇宙の彼方から悪意に満ちた禅問答が送られてくる「銀河帝国の弘法も筆の誤り」、火星に生息するある種のカルト集団のはなし「火星のナンシー・ゴードン」、宇宙飛行士が嘔吐する「嘔吐した宇宙飛行士」、光速より早い連絡手段として呪詛が発達した世界を描いた「銀河を駆ける呪詛」の五編を収録。


なんだかこんなのばかり読んでいる気もするが。。まあ、悪趣味は悪趣味でもこちらは予想/期待どおり。田中氏の悪趣味と下品さの横溢する作品群の中では、この作品は極めて質が高く、優れた作品集だと思う(悪趣味で下品だが)。田中氏は、ともすればその極めて個性的な表現の中で、あんまり読ませることに興味を失ってしまうのか、アイディアばかりが発射され、文章としての体をなさなくなってしまうことがままあるように思うのだが、本作はどの話も文章としての質が高く、非常に楽しめた。ただ、一番面白かったのは、作品ごとに挟まれている、他の作家による作者紹介(批判)で、特に田中哲弥氏によるものが秀逸。


「たとえば、「手芸をやってるなんてしゅげー」みたいなどうでもいい駄洒落を、それも恥ずかしそうにおずおずと言うならともかくどうじゃとばかり胸張って偉そうに言ってしまう大変に愚かしい人が目の前にいたとして、さあ、では今のしゃれを解説してみてくださいと言われたらあんたどうする。(改行)ぼくが今やろうとしているのはまさにそういうことである。」


こんな調子で延々続く。あらまあ、この人文章が上手い。他の「解説」がいまいち切れがないのだが、これはとても面白い。この人の小説も読んでみなくては。(ハヤカワ文庫JA