松尾由美「銀杏坂」
- 作者: 松尾由美
- 出版社/メーカー: 光文社
- 発売日: 2004/01
- メディア: 文庫
- クリック: 27回
- この商品を含むブログ (16件) を見る
これは貸した本が返ってきたときに読んでしまったもの。松尾由美という作家は、高橋源一郎氏のことばを借りれば、世界をまったくちがう見方で見ることができる作家だと思う。これはある種典型的なミステリーの形式をとりながら、幽霊や超能力といった多少異常な設定が導入される。それだけならば同じような試みをしていて、しかも素晴らしい作品を書いている他の例もあるのだが、この作家の物凄いところは、その設定からさらに一歩踏みだし、わざわざ構築した世界を土台から揺さぶり、あやうくひっくり返してしまいそうになるまで世界を展開させてしまうところだと思う。その意味で、最後のはなし、山上記は圧巻でした。この、予定調和の世界に居心地良く浸っていたところを、突然不安と不思議な感覚に溢れた世界に連れ込んでしまう文章と物語の力強さには、始めは釈然としない気分もあるのだが、最後にはむしろ心地よい感覚に襲われてしまう爽快感がありました。あの脅威の傑作「スパイク」も、また読んでみなくては。本当に松尾氏は素敵な小説を書くなあ。