秋庭俊「帝都東京・隠された地下網の秘密」

帝都東京・隠された地下網の秘密 (新潮文庫)

帝都東京・隠された地下網の秘密 (新潮文庫)

東京の地下には戦前から地下鉄が建設されていたという「隠された秘密」を「暴いた」本。


なかなか面白かった。公表されていないことに突き当たるたびに、それは「政府の隠蔽」工作が行われた証拠として著者の目にはうつり、地図上の記号がずれていたり省略されていたりするところは「改描」の傍証として扱われる。そうこうするうちに著者はそのような「改描」や「隠蔽」、もしくはそのような「隠蔽工作」に対抗する人々が残したメッセージを解読できるようになり、「都市計画の権威・ビアード博士」が残した報告書の「国および宮内省の所有する街路にも、もとより建設修理点灯せねばならぬ。それを市民が負担する法はない。」との一文をあげて、「つまり「街路」という言葉はこの頃から地下道の意味で使われていた。」と結論付けられる。


ようは、悪い論文の見本のような本で、さまざまな解釈が可能な傍証のつみあげを元に議論を飛躍させ、その飛躍の上にたどり着いた結論にあう事柄は議論の証拠として、あわないことは隠蔽工作として扱うという、どのような議論でも可能になる論法で構成されている。この本の欠点は、このまさにどのような議論も可能となってしまうというところで、これでは筆者の議論だけが説得力がある理由がない。しかも、少しは具体的な証拠でもって論じてあると思いきや、全ては二次資料からの引用であり、説得力にも欠けているといわざるを得ない。そもそも、章立てから文章の構成から、構築的ではなく何を議論しているのか見失ってしまうことがしばしばである。せめて、どのような地下網が構築されていたのか、分かりやすく図解するぐらいのことは、最低限必要であったと思われる。しかし、おもわぬ「トンデモ本」にめぐり合い、それ自体はなかなか楽しい経験でした。