ジェフリー・ディーバー「クリスマス・プレゼント」

クリスマス・プレゼント (文春文庫)

クリスマス・プレゼント (文春文庫)

ボーン・コレクター」で知られるジェフリー・ディーバーの手による、16編の短編小説からなる短編集。


著者まえがきが全てを表している。「しかし、長さ三十ページの短編となると、事情はまるでちがってくる。読者は、長編の場合とちがい、さほど多くの感情を投資しない。…(中略)短編小説は、たとえるなら、狙撃手の放った銃弾だ。早くてショッキングなものだ。そこでは、善を悪として、悪をさらなる悪として、そして何より痛快なことには、究極の善を究極の悪として描くことさえできる。」なんだかよくわからないなあと思いながら読み進んだのだが、最初の話から深く納得。少ないページの中で、物語にのめり込ませ、そののめりこみのモーメントを利用して全く異なった方向へ読み手を放り投げる、そんな巧みな小説に溢れている。


僕は、よく言われる「短編こそが真に難しい」というテーゼがあまり理解できないのだが、それはこのことばには基本的に短編小説を技術的なものとして捉えている見方があらわれているからだと思う。ある意味で、その最も先鋭的な例がこの短編集には詰められているのだが、それでもとても面白かった。悪く言えば子供っぽい、もう少し高級に言えば極めて洗練された叙述と錯覚のトリックが全編に仕掛けられ、途中でちょっと疲れてもしまうし、本半ばではだいたいの話の展開に検討がつくようになるが、それでもここまで気持ちよく読み通せるのは、まさに作家の技術力と構築力、そしてなにより文章の力強さのためか。例えばバラードやハミルトン、コードウィナー・スミスのような叙情性に溢れた短編は一つもないが、それらとは全く違った短編の楽しさを発見することができた。というか、こんな短編この人しか書けないのではないかなあ。いやー、すごいすごい。久しぶりに文句なしに堪能しましたですよ。