目取真俊「水滴」
- 作者: 目取真俊
- 出版社/メーカー: 文藝春秋
- 発売日: 2000/10/06
- メディア: 文庫
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つい最近読んだ本だが、文庫で再版されていたので再読。やはり良い。「水滴」が芥川賞受賞作だが、むしろ「風音」の方が好きだし、もっと好きなのは「オキナワン・ブック・レヴュー」。後者はこの作者にしてはめずらしく極めてコミカルでテンションの高い作品だが、やはり何度読んでも面白い。書評の形を借りながら、沖縄における思想的な闘争を描き、その首謀者である一人はある時点で投獄され、その獄中記までレビューされたかと思うと、そのレビューアーが夢やぶれた末精神病院に入院したあげく自分が神であるとの結論に達したところまでレビューされる。はなしも素敵なのだが、とにかく語り口の饒舌さとおかしさ、そしてその背後に漂うあきらめと絶望感のないまぜになったなんともいえない口調が、しみじみ楽しい。文字を読むこと、文章を読むことの楽しさを感じさせられる。
「風音」も傑作。沖縄戦で殺された兵士の亡骸から万年筆を盗み取った事を気に病む父、その顛末を知らず風葬の場で頭蓋骨に遭遇する子、そして取材に来た特攻隊の一員であった過去を持つテレビ局の男が織りなす物語のすがすがしさは、なんだかよく分からないがとても気持ちがよい。沖縄本島には行ったことがないが、これを読んでは行かずにはいられない。「水滴」もとても良くできた小説でした。この人の良いところは、「シャーマニズム」や「沖縄文化」を、そのようなものとしてある種「異化」して語ってしまうのではなく、理解できることを、伝わることばで書けることなのだと思う。ここには「沖縄」を外側から「オリエンタリズム」的に語ることばや、沖縄の特殊性を特権のように語ることばは存在しない。気がつくと「沖縄」を内側から、語っていることばに向き合わされている。それが心地よい。また、お話が暗くないところも良い。特に「水滴」での、トリックスター的な親戚の男の顛末が素敵。アコギな商売がはたんして皆に袋だたきにされ、折れた両手が使えないのでストローで泡盛をすする最後の場面など、とても良い。小説って力強いものだと、改めて思う。