秋月涼介「消えた探偵」

消えた探偵 (講談社ノベルス)

消えた探偵 (講談社ノベルス)

舞台は特殊な妄想を持った患者が集められた療養病棟とおぼしき施設、入った扉から出ないと異世界に転位してしまうという妄想を持った主人公が、2週間前の殺人を予知したという妄想に襲われ、7人ほどの人格を持つという男をアドバイザーに、悪魔に襲われるという妄想を持つ少女と共に、7分以上記憶を保持することができない女性、恐怖に襲われ続ける女性、多重の恐怖症に常に襲われ続けている男性、不眠症の女性、躁鬱病の女性などの中から、犯人と被害者を捜すはなし。


最近講談社ノベルズの新刊に全く手が伸びない。一時期、本格的に「新しさ」を感じさせてくれた作家たちの新作が全く上梓されないことが最大の理由だが、こちらの趣味も変化しているためかもしれない。「世界の果てのレストラン」が書店に見つからなかったので、仕方なく購入したこの本を読んで、改めてそう思った。


物語は、ある種「典型的」なサイコスリラーもの。精神疾患をもった人物たちが物語を構成するが、その人物造形は当然現実感のあるものではなく、設定された人格を演ずるような、ある種のファンタジー的な世界。おそらく、この「異常な」人物設定こそがこの作家の持ち味なのだろうと思うが、そもそもこのような題材を扱うことに技術的・倫理的な無理があるためか、読んでいるうちに登場人物が「異常性格」というキャラクターのコスプレをしているかのような雰囲気が漂う。物語自体は極めて凡庸。聞き込みを一人一人行ううちに半分くらいまでページが消費されていたりする。一方で、展開や結末に関しては、なるほどなあ、というか、よく考えたなあと思わなくもない。でも、全然残らないんだよね。とりたてて人に勧めようとも思わない。僕の趣味が変化したのか、このような「異常」小説系に飽きたのか、それとも単に面白くないのか。