フィリップ・K・ディック「ウォー・ゲーム」

フィリップ・K・ディック短篇集〈2〉ウォー・ゲーム (ちくま文庫)

フィリップ・K・ディック短篇集〈2〉ウォー・ゲーム (ちくま文庫)

ちくま文庫「復刊フェア」で復刊されたらしい。「読めなかった文庫が帰ってきた。」との帯と、解説が久間十義なところにひかれてつい購入。滅亡した惑星を守り続ける砲台とその惑星を探索しに来た宇宙船の話、どこでもドアのような装置の試用をするうちに実は神になっていた男の話、ガニメデ星から神様をおみやげに持ち帰ってしまった男の話、タイムマシンで過去を改変した男が、結果現れた世界にもといた世界での息子の幻影を見る話、宇宙での事故で6人の乗組員全員が死亡したはずの宇宙船が何度も何度も宇宙から帰還してしまう話、ガニメデ特産の子供用玩具の重大なる影響についての話など、相変わらずシュールで分裂気味な短編を収録。


まあ、いつものディックでした。しかし、なぜかおとなしい感じが。極めてSF的に作られていて、良くできてしまっている。あの、ディックの底知れぬ魅力の源である絶え間ない不安感や違和感、行き当たりばったりに思えて不思議と着地点をめざす奇妙な構成、あらわれては消えてゆく登場人物、全く無視される伏線などが、ほとんど感じられない。唯一ディックらしい不気味な作品はといえば、宇宙で乗組員全員が死亡したことが確認された宇宙船が、何度も何度もその6人の乗組員とともに戻ってくる作品か。この作品の恐ろしいところは、戻ってくる乗組員の視点から物語は始まるのだが、彼らはたちまちのうちに虐殺されてしまい、そのやりかたに一抹の不安と恐怖を憶える捜査員の視点から、実は彼らが宇宙からの何らかの異物、またはメッセージと思われていることが明らかになるという構成。でも、基本的にはとても楽しめました。やはり、P. K. ディックにははずれは不思議と存在しない。「パーマーエルドリッチの三つの聖痕」のような暴力的ともいえる幻惑感こそ無いが、とても質の高い作品が集められている。しかし最近ディックの復刊が多いなあ。でも、体力無いと読めないから手が伸びない。こんな危ない小説群を読む人が多いとはとても考えられないのだが。やはり映画化が原因なのか。