井上夢人「ザ・チーム」

the TEAM ザ・チーム

the TEAM ザ・チーム

盲目で難聴のイカサマ占い師は私設の調査チームをもち、内偵を進めた上でテレビ番組で相手の悩みを解決するのだが、内偵が行きすぎて犯罪を暴き立ててしまうこともあり、その名声はいや増しに高まり、当然強請のネタにもされ、その強請もなんなくとかわしてしまうものの、ある日煙のように消え去るはなし。


鍵のかかった家の内側に鍵を持たずに入り込む特技のある男と、不適切に詳しいクラッキングの知識を持った女性が主に内偵を担当し、この二人に加えもう一人、マネージャーの男性がいわゆる「チーム」を構成する。この三人が、親分の占い師の女性が見透す相手のプライバシーや過去を探り、本人の問題を解決する一方で犯罪行為や消したい過去なども暴いてゆく。


基本的にはテンポ良く痛快なミステリーなのだが、やはり「暴かれたくない過去」が主題となってくるだけあって物語のトーンは明るいとは言い切れない。しかし、さすが井上夢人と言うべきか、ある種の何とも言えない後味の悪さだけでボールを投げ続けるのではなく、クライムノベル的な展開や、人情ものと言うしかないようなはなしを織り交ぜて語り、なんとも心地よく読み進んだ。物語のクライマックスはこれまた極めて思い切りの良い展開を迎えるのだが、気がついたら物語が主人公と思い続けた人とは全く違う人によって語られていたりして、物語自体が肩すかしというか、とにかく上手い。微妙な題材だとは思うが、見事な料理の腕前にはただただ心地よさが感じられる。さすが井上夢人氏、相変わらず切れ味が鋭い。表紙と扉の狸が可愛い。