星新一「声の網」

声の網 (角川文庫)

声の網 (角川文庫)

個人が電話で巨大コンピュータ網と接続され、電話によって個人情報の管理から販売管理、銀行振り込み、その他諸々の事ができるようになった時代、突然見知らぬ男の声で電話がかかってきて、自分の過去の秘密を指摘されるという事件が起こる。事件はどんどんエスカレートし、奇妙な電話の声は社会の様々な階層、膨大な広がりの中で個人を誘導、操作し始める。突然の停電によって生じた大パニックによってこの奇妙な現象は最高潮を迎えるが、やがてその事件すらも奇妙な声によって忘れさせられ、最後には不思議な予定調和とホメオスタシスが保たれた、奇妙に穏やかな世界があらわれる。


そのデザインだけではなく最近は手触りも素敵なブックカバーをつけてくれる、吉祥寺の書店ブックスルーエで、あまりに表紙が素敵なので手に取ったら、なんと12章に分かれている全ての章の始めにこれまた素敵なイラストが。片山若子というイラストレータが描いているらしい。これは確か「春季限定いちごタルト事件」の表紙とおんなじひとだあ。そんなわけで、今回は本当に本自体がほしくなったので購入した。お話は上に述べたとおり。ある意味、過去の時点でインターネットを電話に置き換えて想像したお話。コンピュータは存在するがPCの概念がまだ無かった時代に構想されたもので、その懐かしい手触りはとても楽しい。また、あっけらかんとしたSFかと思いきや、極めて乾いた話調の中で展開される話は驚くほどダークというか、不思議に破滅的。最終的なお話の終わり方には、なにか体温が下がるような、冷え冷えとした感じがあってとても面白かった。星新一っていう作家はほとんど読んだことがなかったが、まともそうで結構異常だなあ。素敵素敵。しかし、何が良かったかといって、次の挿絵を見たくてわくわくしながらページをめくる感覚は最高でした。久しぶりに楽しい読書をしたよ。