畠中恵「アコギなのかリッパなのか」

アコギなのかリッパなのか

アコギなのかリッパなのか

とある事情で前大物代議士の事務員として雑用を行いながら大学に通う主人公が、その移り気ではた迷惑な前大物代議士の持ちこむ騒動の解決に紛争するはなし。


しゃばけ」等のシリーズでその文章の流麗さと物語の構築の巧みさを否応なしに見せつけた作者が、「とっても不幸な幸運」で現代物でもとても上手な書き手であることを見せつけたため、本書が出たときには迷わず購入した。しかし、これは残念ながらあまり楽しめなかった。まず、なぜ主人公が代議士の事務員である必要があるのか、全く理解ができない。持ち込まれる騒動は、知り合いの老婦人の猫の毛色が変わっただの、知り合いの議員の秘書が絵を持ち逃げして宗教団体に入会しただの、あんまり設定とのつながりの強さが感じられない。ちょっと、奇をてらった設定と物語がうまくかみ合っていない。こう述べることは妥当でも正当でも意味があることでも無いかもしれないが、主人公は司法書士事務所の事務員でも建築事務所の事務員でもいかなる財団や社団法人の事務員でも成り立ちうる。つまり、そう感じさせてしまうほど、一つ一つのエピソードに力というか、切れ味が感じられなかった。また、言葉遣いも気になる。そもそも「未亡人」なることばを使うことができる感覚にも首をひねらざるを得ないが、会話文でその当人に向かって「未亡人」と呼びかける設定も、極めて異常に感じる。それが悪いとは言うつもりもないが、読んでいて無駄に足を引っ張られるというか、正直気になってたまらない。この作家の持ち味、つまり極めて洗練されて落ち着いた雰囲気のある世界を作り出す力が、どうも政治家の秘書の世界とは全くかみ合っていないという感覚が、最後まで感じれられてしまった。