我孫子武丸「弥勒の掌」

弥勒の掌 (本格ミステリ・マスターズ)

弥勒の掌 (本格ミステリ・マスターズ)

教え子と性交渉を持ち妊娠・堕胎させたため、転勤になり夫婦仲が疎遠になった高校教師の妻が失踪、同時にヤクザめいた警察官の妻がラブホテルで殺されるという事件が発生する。この二つの事件に関わりを持つと思われる新興宗教集団「救いの御手」に高校教師が潜入したり警察官が脅しをかけたりするはなし。


久しぶりにいかにも「本格推理」という感じの小説を読んだ。ここまで読者のために色々考えて精緻な物語を作り、しかも様式にのっとり大げさで大仰な舞台と語りの方式を一生懸命つくってくれて、ありがとうというかお疲れ様というかさようならというか。。いったいなんなのだろう、この読後の「何も残らない」感覚は。一つには、あまりにも物語の構成にこだわりすぎるあまり、その構成の美の一転に物語が集中してゆき、それ以外の全てがどうでも良くなっていったなかで、最終的に集中していった物語の先端がこれまたどうでも良いような終わり方を見せてしまった気がする。また、そのために用意された物語の舞台装置がなんとなく後味が悪く楽しくない。もしかしたらどこかに書いてあったのかもしれないが、結局なぜ殺人事件がラブホテルで起こったのか分からなかったし、そもそも殺人の理由もよく分からなかった。これは確かに読み飛ばしただけである可能性もあるが、あんまり気を入れて書かれていなかった気もする。でもまあ、よくこのような構成を考えつくなあと感心したことは確か。ことばを使った巨大なパズルというか、構成の迷路というか、とにかく凄いことは凄い。文章もこなれているが書き流した風でもなく、非常にしっかりしていてびっくりした。