芦原すなお「ブルーフォックス・パラドックス」

親友の変死を発見した主人公の男が、その親友の自宅の片づけをしていると気分が急変、体温が下がり視界が青くなり、不思議なFAXが届く。どうやら親友は狐に取り憑かれていたらしく、こんどは主人公に憑依したらしい。不思議なFAXはその後も続き、主人公は親友の後を継いで小説を書かされる羽目に。体温の低下に耐えられず向かった病院では「憑依研究所」を紹介され、何ヶ月後かに底へ向かう途中で物語は奇妙なカタストロフを迎える。


青春デンデケデケデケ」で直木賞を受賞した芦原氏だが、僕はその作品は読んだことがない。読んだことがあるのは「ミミズクとオリーブ」、「嫁洗い池」、「ハート・オブ・スティール(文庫では「雪のマズルカ」)」、「月夜の晩に火事がいて」の4作。どれもミステリーとカテゴライズされるだろうが、後者の2作は不思議と静謐な雰囲気の中に死のイメージが濃厚に漂い、読んでいてたじろがされるような思いを受けたことを憶えている。本作はミステリー的ではあるがミステリー的予定調和の構成は採用されず、むしろ幻想小説的に全ては茫洋としたとらえどころのない世界に回収されてゆく。正直、あまり物語の筋がつかめず、何となく作者に引っ張られ最後まで読んだという感じ。しかし、物語自体は「幻想文学」によく見られる、作者が自分の作り出した世界に悪酔いして、こちらから見ればどうでも良い記述に終始したまま物語の構築を放棄する様な事は見られず、極めて力強く、テンポ良く構築されている。また、相変わらず静謐な筆致の中に、またしても「死」のイメージが漂っていることは疑いようが無い。なにか、死人の独白を聞かされているようで、不気味ではあるが面白かった。でもちょっと、物足りなかったことも確か。物語の筋立てがあまりにも行き当たりばったりに感じられてしまった。「月夜の晩に火事がいて」ほどの、濃厚な味わいが感じられなかったのは残念。あいかわらず文章は見事なもので、その流れに目を泳がせているだけでも心地よいのではあるが。