津原泰水「アクアポリスQ」

アクアポリスQ

アクアポリスQ

近未来、海に浮かぶ人工島で、不思議な少年が消失したと思ったら巨大な霊獣に変化するのを目撃した少年が、陰陽師の名を名乗る白髪の女性により、数年後再び霊獣騒ぎに巻き込まれる。そのなかで、引きこもりの幼なじみや美術部の先輩や未来の自分と出会い、結果的に人工島の崩壊を食い止める、という雰囲気のはなし。


おそらく短編として書かれたアイディアを、何らかの理由で長編に仕立て上げたのではないか。そう感じられるくらい、物語が茫洋としてつかみ所がなく構築的ではない。舞台である世界の姿が、はなしが進むに連れてぽつぽつと明らかにされてゆくのは、演出というよりはむしろそもそも考えられていなかったのではないか。そう感じさせるぎこちなさといびつな雰囲気に包まれているものの、それが決して物語としての質を落としているわけではなく、むしろ不思議な感覚が心地よく楽しめた。しかしやっぱり、突然陰陽師蘆屋道満と言われても、物語の練り込み不足ではないかと思ってしまうのではあるが。ともあれ、文章の切れ、世界の構築のされ方の鋭さ、匂い立つようなイメージ、混沌とした登場人物の口調、一方で静かで落ち着いた物語の語られかたなど、相変わらずこの人はものがたりが上手い。現実のあり方の多重性だのマヤラインだのさっぱり理解はできなかったが、何の問題もなく面白い。