中島らも「酒気帯び車椅子」

酒気帯び車椅子

酒気帯び車椅子

ゴルフ場を転用して墓地をつくるプロジェクトにやくざが介入、むげに断った主人公である男性の部長の家が強襲され、彼の目の前で妻は惨殺、娘は誘拐、自分は脚を切断するまでの傷を負わされるが、退院するとすぐさま復讐に乗り出し、過剰武装の車椅子でやくざを皆殺しにするはなし。


異様な小説である。テンポは躁的に早くて軽く、はじめのうちの肩の力の抜けた家庭小説的な記述に身をゆだねていると、ある瞬間から物語の調子は激変し、どうしようもなく暗くてグロテスクで暴力的で陰惨な描写がこれまたテンポ良く襲いかかり、まったくもって予想ができてしまう破滅的な結末に向けてぐんぐん加速、勢いよく読み終わると吐き気にも似た不快感にも襲われた。で、結局面白かったのかというとものすごく面白かった。ただ、誰にもお勧めしたくはない。とにかく理不尽で無茶、なぜこのような話を書きたくなったのか理解ができない。しかし、面白かった理由はと言えば、その荒唐無稽さと、不思議と落ち着きが感じられてしまう「らも的」な文章のビート感なのではないかと思う。編集部からの付記で、記述に矛盾した点があるが作者が他界しているためそのまま出版したとあるように、おそらく勢いで書き抜けた第一稿から、最終的な推敲と構成を終えることができずに作者が亡くなってしまったのだろうと思う。それだけにほとばしる不条理感と、一度止めたら二度と読むのを再開したくは無いのではないかと思わせてしまうような勢いが感じられる。